何者かであり何者でもない話
『何者』を観劇しました。純粋なお芝居を見にいくのはとても久し振り(
銀劇恒例のイメージドリンク(もちろんアルコールで)いただいて、いざ。
Twitterに流れている評判だけでも、何か、凄まじいことが起きているのでは、と思っていた舞台『何者』。
常日頃、顕嵐ちゃんとかれおれおとか、可愛い可愛いで相対してきたLove-tuneの末っ子たちの、何か、本質に触れるような、人様の感想を読んだ時の想像をはるかに超える、凄まじい舞台だった。
開幕前から、スピーカーから流れる音楽とVJ。鼓動と同期するようなビート、意味性を持たない映像。そして、やがて、どちらかといえば静かに始まる面接の光景。
たった一つの質問に、動揺し、おどおどと立ち上がる拓人、あの特徴的な声で「私は……」と上ずらせて話す彼は、よく知っている阿部顕嵐の片鱗を全く残していなくて、とても近くで見ているのに、全くの別人に見えた。
フラッシュバックのように、始まる4人と、ギンジとサワ先輩の物語。主人公は拓人とはいえ、拓人はどことなく、いつも所在なげで、拓人を中心に物語は進んでいるのに、とても影が薄い。Twitterの呟きも、拓人の名前では後輩の舞台の宣伝だけ。
代わりに際立つのがリカ、瑞月、隆良、光太郎、そしてギンジの存在で。
実際舞台上の俳優は6人で、ギンジはSNS上にしか現れないのに、ギンジというキャラクターがものすごく生きてる。影が薄くさえ感じる拓人と対照的ですらある。
リカも隆良も、自意識が高く、失敗したくなくて、多分、人に弱い部分を曝け出せないタイプ。リカは積極的にマウンティングするけど、隆良は、俯瞰で見るという逃げを延々決め込んでいる。そういう、イイ性格のふたりを、美山加恋ちゃんもながつも、凄く生々しく演じてる。
リカに対して、恐らく拓人が抱いている、こいつイヤな女だな、という一面と、本当は弱くて隆良に甘える部分とが絶妙で、加恋ちゃんの上手さが際立つ(お気づきの方もいるでしょうけど、今彼女はプリキュアの主人公をやっているので、ギャップが凄い)。そして、ながつ。丸尾さんが、ながつはギフトを貰っている。という意味が凄くよくわかる。
見た目が凄く良くて、頭も良くて、人を少し下に見て、同じ土俵に上がっていないことで、本当は何も達成していない自分の自我を保っている。でも、どこかリカに対しては誠実に見えて。
そういうものが、ただそこに立っていること、座って本のページを捲っていることで、凝縮した存在感を放っている。
スタイルが良くて見た目が美しいというだけで十分なギフトなのに、その存在感や佇まいで、いつもの長妻怜央以外の存在なのに、そこに居ることの意味性やキャラクターを押し出してしまう。
長妻怜央が希有な存在かも知れないと思わせる一端。
瑞月に責められたあと、それでも必死に自我を保とうと荒れるのに、そのあと、拓人と揉めたリカをそっと慰める姿には、ポーズではない、一種の包容力すら見ることができた。
拓人が思いを寄せていた瑞月。多分、一生その思いには気がつかないままで、でも、その純粋で真っ直ぐで真面目なところが嫌味なく見えていて。理想だけではどうにもならない。面倒な現実と渡り合って、折り合いをつけながら生きていこうとする彼女だから、隆良への言葉に説得力と重みとリアリティがあって、だからこそ隆良に真っ直ぐ刺さる。でも、お母さんとの関係のくだりでは、そんなにお母さんのために頑張らなくていいんだよって思ったり、リカからみると何かいらつむところがあったろするんだろうなと思うところもあって、宮崎香蓮ちゃんのいい意味での普通っぽさが、ただのいい子なだけじゃない感じで凄くナチュラルだった。あと、瑞月は拓人が自分に好意を持ってることはわかってるんだろうなと思うので、なかなかズルいな、と思う面もあったり。
光太郎は、要領が良くて明るくていいやつで、悩みとかないように見えて、でも、夢みたいな、漫画みたいなロマンを信じてる。勝大くんはその等身大の感じを出すのが上手くて、拓人との友人関係や隆良とも上手くやっていそうなコミュ力高そうな感じがあった。普通に本当にいい友達なんだよね。て思わせてくれる。
サワ先輩は本当に大人で、想像していたよりももっと達観してる感じだった。拓人の懐き方がすごくて、それをちゃんと受け止めてあげられている。院生だけど、もっと大人な感じだった。しかし、これは演じた小野田さんの安定感がもたらすものかもしれない。
そして、拓人の顕嵐ちゃん。
冷静な分析屋というよりは、ちょっと煮え切らない感じの、どこか所在無げで頼りなさげな拓人が、リカと言い争ったあとの、まるで発狂でもしたような、内なるいらだちや鬱憤やそういう何もかもをさらけ出したあのダンスに至るあの瞬間の衝撃と言ったら!
身体能力あればこそなのだろうけど、転げまわり、台から落ち、紙ふぶきのように噴出された名刺をむさぼる様子は、こちらの感情をぐらぐらと揺さぶってくる。
不安と葛藤とうまくいかなさとかそういうモノがぐちゃぐちゃに内側にあって、それを表に出すこともできずに、ただ、SNSで分かった風な顔をして、でもそれを暴かれたときに、すべての感情が決壊してあの表現になったのだと思うと、そのほとばしるような凄まじいエネルギーをこちらも受け止めながら、圧倒されてしまった。
むしろ、あの中にさまざまなものが内包されていたのでは、と思ったり考えたりできたのは、すべてを見終わった後で、舞台上の拓人はまったく阿部顕嵐ではなくて。
あんな激しくも息苦しい表現をやってのけるタフさを持った人だったのかと、ものすごく驚いたりもした。
最後のシーンで笑顔になる彼の心の中に、どんな感情が潜んでいたのか、完全には読み切れないまま終わってしまって、微かな希望であればいいなと思ったりもした。
エントリーシートが降ってくる演出や、SNSの表現の仕方、必要最小限のセットなど、洗練された印象で、きちんと演劇畑の演出家さんが演劇の文法で構築した舞台を体験したことは、主演の顕嵐ちゃんはもちろん、ながつにとってもすごくよい経験だったのだろうと思うし…何より、ふたりの持つポテンシャルがとんでもないモノだと思わされた。
かなうなら、何度も日をおいて繰り返し見てみたかった。きっとその日、その日で違う感触だったのだろうし、初日と千穐楽ではきっと進化の具合が見えただろうと思う。
外部舞台に出る意味みたいな大仰なことは言わないけど、質の良い舞台に携われる幸運を確かな力に代えて、次に繋げてほしいって、強く思う舞台だった。
いやまあ、圧倒されながらも、ながつのスタイルの良さに惚れ惚れしたり、顕嵐ちゃんが煙草吸う姿が見られるなんて!と悦に入ったり、邪念たっぷりな目がなくなることなんてなかったですけどね…!